2011年3月9日水曜日

ボルヘス「土曜日」

ボルヘスの詩集『ブエノスアイレスの熱情』から一つ。


土曜日   -C.Gに

〈時〉に嵌め込まれた色褪せた宝石、
そんな夕陽のまさに沈まんとする
低い家並みの忘我の街は、
君には目もくれなかった人々で一杯だ。
夕暮れは口を噤み、そして歌う。
囚われし憧れを
ピアノから解き放つのは誰か。
君の美しさは多様でしかも絶え間ない。

つれない君は
麗しく、
奇跡で〈時〉を満たしてくれる。
緑の若葉に春を知るように
幸せは君のなかにある。
何ものにも価しないこのわたしこそ、
夕暮れに消えてゆく
あの憧れにしかすぎぬ。
剣に惨さがあるように
君のなかには無上の喜びが。

格子窓を押さえつけ夜が訪れる。
質素な居間では盲者の手探りで
二人の孤独が求め合う。
白く輝く肉体のまま
黄昏を生き抜く君だ。
ふたりの愛には苦しみがあり、
それは魂に似通っている。

きのう美しさそのものだった
君は、
今では愛のすべてなのだ。

『ブエノスアイレスの熱情』水声社(2008)pp.96-98


ボルヘスは詩よりも、短編の方を多く読んでいたせいか、
珍しくキラキラした印象を受けた。他の詩を読んで、簡単な比較をしてみても、
この詩は綺麗な詩だと思う。ボルヘスの作品としても、詩としても。
描いている情景も、(邦訳ではあるが)言葉の使い方も。

以上のような感想以外に、特に何も用意していないが、たまには、
自分の好きなものをただ、簡潔に載せるのも良いかもと思った。

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